『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』マシンデザイン 河森正治 メカニカルイラストインタビュー
近未来のモータースポーツを題材にした『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』の大きな魅力のひとつが、マシンデザイン:河森正治氏が構造面にまで踏み込んで生み出したサイバーマシンたちだ。そのデザイン思想を存分に味わえるのが、河森氏自らが手掛けたメカニカルイラストだろう。なかでもνアスラーダAKF-0/Gのメカニカルイラストは、単純にマシンの内部構造を見せるだけではなく、キャラクター性を残しながら、そのメカニズムを描き出す手法が採られている。そこに込められているのは、メカニズムの説得力と、アスラーダとしてのキャラクター性をいかに両立させるかという工夫である。河森氏がこのメカニカルイラストに込めた思いをお聞きした。
サイバーマシンらしさと
リアルな構造を両立すること
このνアスラーダAKF-0/Gのメカニカルイラストは、1999年に描かれたものですが、当時はこうした透視図やメカニカルイラストが多かった印象があります。
河森:『サイバーフォーミュラ』に限らず、「メカニカルなイラストが欲しい」という理解があった時代でしたね。メカの外見を描くだけではなく、本当の意味でのメカニズム…、機能や仕組みまで、作品の魅力として受け止めてもらえる機会が多かったと思います。しかもレーシングカーですからね。ロボット作品ならまだしも、オリジナルのレースアニメでレーシングカーのメカニカルイラストを描けるのは、稀有な例だと思います。
メカニズムも魅力として受け止められていた時代という印象がありますね。
河森:まだ関心がメカニズムにも向いてくれていた時代でしたからね。現在も関心を持ってくれる人がいないわけではありませんが、それが普通にアニメ誌のグラビアや、ポスターになっていたのは大きかったといえます。
サイバーマシンは、現実の車をベースに架空のSF要素を融合させたメカですが、現実のメカニズムとフィクションのバランスはどのように考えているのでしょうか?
河森:架空のレースとはいえ、身近な車がベースとなると、メカニズム的には正確さが求められますからね。やりがいがある題材であると同時に、描くためにはきっちりと構造を考える必要があります。一方で、現実のままの構造を描いて、『サイバーフォーミュラ』のキャラクター性を削ってしまうという問題もあります。そのあたりのバランスが難しいです。最終的には「サイバーマシンらしさを出さないといけない」というのは強く思う部分です。
こうしたイラストが飾られていることで、メカへの興味や疑問を持つ人が増えるといいですね。
河森:車だけではなく、いまやメカニズムの多くはブラックボックスになっていますからね。あまりメカの構造を想像する機会も、現在は少なくなっていると思いますから。色々な想像を膨らませていただけると楽しいかもしれません。自分の場合は中学生の頃からシーサイドモーターという、のちにスーパーカーブームの火付け役となったカーディーラーの修理工場に遊びに行っていたのは大きかったです。ショールームではなく修理工場が身近な存在だったので、メカニズムを知るうえでは大きな財産となりました。
メカニカルイラストを描くうえで、実在するメカの構造や原理について、どの程度の知識が必要なのでしょうか?
河森:ある程度のロジックといいますか、最低限の基本原理は知っておいたほうがいいでしょう。もちろん、本当に細かい原理まで追求すると、専門的すぎて、すべてを理解するのは難しいでしょうけど。
ただ、基本原理を知らないと応用が利きにくいし、レギュレーションとの兼ね合いなども、ある程度わかっていたほうがいいでしょう。それがわかっていれば、作品の世界観に合わせて、「どんな嘘を、どのくらいつけばいいのか」が見えてきますから。
一方で、すべてをロジックだけで考えてもダメだし、飛躍だけでも、とんでもないものになってしまいます。どこまでをロジックで組み立てて、どこから飛躍させるのか。その感覚は、常に意識していたほうがいいと思っています。
ロジック的な考えと飛躍的な考えは、「違うベクトルなんだ」と思っていたほうが機能しやすいと思います。ベクトルが違えば喧嘩せず、デザイン上でも掛け算になるんですよ。逆に同じベクトルにあるもの同士だと、足し算や引き算になったり、ぶつかり合ったりしてしまう。「明らかに違うものを扱っているんだ」と頭の中で整理しておくと、ずいぶん楽になると思います。
このイラストを描いた際に、工夫したのはどんな部分ですか?
河森:どこを隠して、どこを見せるか、という点でしょうか。すべて透明にしてしまうと、キャラクター性としての見え方がちょっと弱くなってしまうんです。たとえばスゴウチームの「S」の文字も、わざと残していることでアスラーダであることを印象づけているんです。
また、ブーストポッドの描き方は工夫したポイントです。ラフでは2つのブーストポッドを両方とも分解図にしていますけど、完成イラストでは片側だけにしています。それによって、ブーストポッドの外観と内部を同時に見ることができる。左右対称のレーシングマシンだからこそ描ける面白さだと思います。
当時のラフ(下書き)も残っていますが、さまざまなアイデアを模索しながら描かれていたことがうかがえますね。
河森:一発で描いたものではないですね。こうしてラフのコピーに描き足した痕跡があるので、ある程度アングルを決めてから、いろいろなパターンを試していくような描き方をしていたんだと思います。
普通の分解図ではなく、透視図の発展型という印象を受けます。たとえばタイヤが付いた状態のまま、ブレーキローターやキャリパーが透けて見えるのは新鮮です。
河森:以前描いたスーパーアスラーダ01のメカニカルイラストと、今回のイラストではそもそも意図が違うんですよ。スーパーアスラーダ01のイラストは整備中の状態を描いているので、ホイールもカウルもすべて外してしまっている。メカニカルではあるけれど、そのぶんキャラクター性が薄れて、何のマシンなのかわかりにくくなってしまうんです。特にフォーミュラマシンは、タイヤを外すと車にすら見えなくなってしまうんですよね。ですから通常のスーパーアスラーダ01がセットで描かれていることで成立するイラストなんです。
メカニズム的に『サイバーフォーミュラ』らしさを見せるポイントはどこになりますか?
河森:F1よりも速度域やパワーが勝っているカテゴリーなので、サスペンションのマウントの太さなど、強度的な問題は意識しています。あとは作品独自の構造として、ブーストとエンジンの接続やダクトの構造……特にブーストへの吸入口は工夫したポイントです。タイヤ上部からブーストシステムへと伸びるダクト部分ですが、吸入口はタイヤに干渉しないように山型になっていて、そこから円筒状に変化していく構造になっているんです。ブーストの搭載位置もνアスラーダAKF-0/Gになって変化したので、形状の違いは意識しました。
エフェクトファンの格納状態もワクワクしますね。
河森:そうですね。エフェクトファンの見せ方も、1つポイントにできるかと思いました。νアスラーダAKF-0/Gでは、エフェクトファンを可動式にして、ラジエターの冷却にも使える構造にしています。これは、使わないときにデッドウェイトにしたくなかったからです。なるべく単一の機能だけで終わらせず、別の用途にも活用できないかと考えた結果ですね。実際にどれだけ冷却効率を上げられるかはわかりませんが、基本的に「使わないときはデッドウェイトになる」ということは避けたいので、通常の機能にプラスアルファの役割を持たせることは意識しています。
メカニカルイラストを描くうえで、気をつける点はありますか?
河森:作画で描くときよりも、線を細くしたり、細部まで描き込んだりすることは意識しています。作画では描くのが大変な部分でも、より細かくしたり、描き込みを増やしたり、複雑な線を加えたり、いろいろ試していますね。
アニメの描写よりもシャープな線にしたほうが、内部のディテール量とのバランスも取りやすいんです。ある程度の繊細な線でなければ、細かなディテールと合わなくなってしまうわけです。大味な描き方になってしまうと、どうしてもおもちゃっぽく見えてしまうんですよね。真っ直ぐな線がほとんどないので、自分としては珍しく雲形定規を使っていたと思います。
スーパーアスラーダ01からνアスラーダAKF-0/Gへの進化では、どのようなことを意識しましたか?
河森:エアロモードを描きやすくしたことと、あとはブーストポッドの位置を変更したことが大きかったですね。特にスーパーアスラーダ01では、ウイングまわりにデザイン上の大きなポイントが2つあることが気になっていたんです。それをνアスラーダAKF-0/Gでは、ブーストに集約できたのがポイントですね。ブーストは本来、もっと車体側に寄せたほうが合理的なんですが、外側に配置したほうがキャラクター性には合うんです。
モータースポーツは、時代とともにマシンが進化していくものですが、その変遷をアニメで描き続けたデザイナーは、河森さんくらいではないでしょうか?
河森:レギュレーションの変化に合わせたマシンの進化を、ほぼ1人で担当させていただけたのはありがたかったですね。『マクロス』シリーズは置いておくとして、アニメーションの場合、普通、シリーズ作品は色々な人が手掛けながら作っていくものですからね。毎回「もうダメかも……」と思いながらやっていますが(笑)。
サイバーマシン全体のことも考慮しなければなりませんね。
河森:やっぱりレギュレーションの問題は大きいでしょうね。たとえば航空機とレーシングマシンを比較すると、「機能を突き詰める」という意味で、考え方は同じじゃないですか。でも航空機は突き詰めていくとなぜかキャラクター性を持つんです。一方でレーシングマシンも機能を追求しているはずなのに、なぜかみんな同じ形になっていく。航空機の場合、要求されるオーダーはあっても、レギュレーションではないことが大きいんでしょう。結局、レギュレーションという決まりごとになってしまうと、みんな収斂進化で似た形になってしまうんです。だからこそ『サイバーフォーミュラ』は選択肢を増やして、「どこに向かうのか」という自由度を探る方向のレギュレーションなんです。
νアスラーダAKF-0/Gは、非常に完成度が高いデザインだと感じますが、歴史である以上、その先も想像してしまいますね。
河森:ヴィジョンアスラーダでは、一度、手描きでは再現が難しいフォルムにトライしたんです。ただ、来年2027年公開予定の新作ショートアニメは手描きだとお聞きして、ヴィジョンアスラーダのフォルムをそのまま継承するのは難しいと思って。そこで、新作ショートアニメに登場するゼニスアスラーダでは分割式のウイングを思いつきました。これならアスラーダらしいキャラクター性を失わずに、手描きでも新世代らしさも出せるという感触がありました。特に人型ロボットと違って、車は手足を動かしてアクションができるわけではありません。CGで車をアクションさせる場合、キャラクター性を出すことはとても難しいんですよ。
だからこそ『サイバーフォーミュラ』は魅力的なんでしょうね。
河森:「作画で描く」ということは、デザインを考えるうえで大きいですよね。実際に作画できるデザインにしなければいけませんから、逆にその制約がキャラクター性を生み出すうえで、魅力的な方向に働くんだなと思いました。
ゼニスアスラーダの時代が描かれることで、その先も期待してしまいますね。
河森:5年に1回ぐらいはやりたいですね。3年に1回はちょっと大変かもしれません(笑)。
2026年で『サイバーフォーミュラ』が35周年を迎えます。長きにわたって応援し続けてくれたファンのみなさんに、メッセージをお願いします。
河森:お陰様で、もう自分の人生の半分を越えてしまった作品になりました。でも、これだけ長く続けてこられたのは、本当にファンのみなさんの応援のおかげです。ライフワークとして、まだまだ走り続けていきたいと思います。これからも応援よろしくお願いします!
本日はありがとうございました。
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